腎臓の提供とは(生体腎移植の提供)
十分な準備や検査を行った後に、あなたの2つある腎臓のうち1つを手術で摘出し、その腎臓を腎不全で治療を受けているあなたの家族にゆずることを腎提供といいます。(死後に臓器を提供する献腎移植の提供とはまったく別のもので、提供者となる方は元気に日常生活を送っている人になります)
成人で、重症の持病がなく、ご家族に対して腎臓を提供したいと考えておられる人は、誰でも腎臓を提供できる可能性があります。血液型が同じでない場合でも(例:提供者がA型→受者がB型)移植は可能です。通常は片側の腎臓を提供しても日常生活や仕事はこれまでと変わりなく続けることができます。しかし、2個の腎臓が1個になるわけですから、残った腎臓を大切にすることは重要になります。
腎提供についての重要な事項は以下の通りです
- 腎臓を提供したいという気持ちをあなた自身が持っておられること(誰にも強制される事なく自発的に腎臓を提供する意思をもっていること)
- 腎提供の手術において、あなた自身(提供者)の安全が見込まれること
- 腎臓を提供した後でも十分な腎機能が見込まれること
- 腎移植を受ける人があなたの肉親か配偶者または配偶者の肉親であること
- あなたと受者(腎移植を受ける人)の方に腎提供に不適応となる感染症・病気や抗体がないこと
腎提供の実際
腎臓提供の実際の流れと危険性について説明します。
準備
通常はすべて外来通院で、3~6ヶ月かけて準備します。腎提供について慎重に考えていただくために時間をかけます。
外来での相談
外来での相談:パンフレットをお渡しし、時間をかけて概略を説明します。
適合性の検査
レシピエント(腎移植を受ける方)との血液検査による適合性を調べます。
全身の検査
提供者の方の全身状態の検査を行い、安全に腎提供できるかどうかを調べます。問題が見つかった場合にはそちらを先に治療します。
腎臓の検査
提供者の方の腎機能を詳しく調べ、片側の腎臓を提供しても残りの腎機能が十分にあるかどうかを調べます。原則的には小さいほうの腎臓(働きの弱いほうの腎臓)を提供していただきます。
相談・面接
ソーシャルワーカ等による相談や面接を行います。
入院と手術
手術の方法について
腎臓の摘出手術は全身麻酔で行います。手術方法は2通りあり、開腹手術と腹腔鏡手術にわけられます。兵庫医科大学では、手術後の創部痛を軽減して回復を早めるために腹腔鏡で手術を行う予定にしています。しかし、重要なことはまず
- 患者さん(腎提供者)の安全
- 提供していただく腎臓の機能が悪くならないようにすること
- 腹腔鏡で手術をして術後が楽に過ごせるようにすること
提供する場合の模式図
と考えています。そのために、手術中に腹腔鏡での摘出が難しい状態になった場合にはすぐに開腹手術に切り替えます。
入院
手術の5~7日前に入院し、手術直前の検査を行います。また、ご家族を交えて手術と治療についての説明をします。
手術
手術は腹腔鏡を使用して、片側の腎臓を摘出します。全身麻酔で行い、麻酔も含めて約5時間かかります。
術後経過
手術の翌日か2日後に歩行を開始できます。食事は2日後に開始します。合併症がなければ1週間で家に帰れる状態になりますが、通常は10日~2週間入院で体調の回復を待って退院になります。
退院後の生活
体調が回復するまで2~3回通院していただきます。その後は腎機能も含めて定期的に年に1~2回検査を受けていただきます。手術の傷が治れば仕事に復帰することができます。
事務的な仕事の場合は退院後1~2週間重いものを持ったり、身体を激しく使ったりする仕事の場合には退院後1~2ヶ月間は徐々に身体を慣らす必要があります。
腎提供の危険性について
腎提供をしたら自分の腎臓が悪くなるのか
腎機能が正常であれば片側の腎臓を摘出しても日常生活や仕事には全く影響はありません。また、当院では現在までのところ、提供者の方で片側の腎臓を摘出したために腎不全になった人もおられません。
腎提供をしたら何が変わるのか
しかし腎臓を提供したことにより、2個ある腎臓が1個になるため、手術前に比べると腎機能は低下していることになります。腎臓の持つ予備機能が減少し、血液検査でもクレアチニンという腎機能の数字が腎臓提供の前と比べて高くなります。片側の腎臓を摘出することによる腎機能の低下の度合いは人によって異なり、提供者の方の年齢が高い場合、高血圧・糖尿病・高脂血症などがある場合には腎臓の予備機能がもともと低下していることが多いので、腎機能が低下する可能性は高いと予想されます。
もし、腎機能の低下が著しい場合には「腎臓病」ということになり、日常生活にも支障をきたしますが、手術前の検査で大きな問題がない方だけが腎提供をされていますので、実際にはそこまで腎機能が悪くなる危険性は低いと考えています。
腎臓の摘出手術の危険性はどのくらいか、どのような手術合併症があるのか
当院で腎臓を提供した人で、これまでのところ生命にかかわるような大きな手術合併症が起こった人はおられません。しかし、腎臓の摘出術には合併症(出血・呼吸器・循環器合併症・腸閉塞・腸管などの隣接臓器の損傷・創部感染・血栓症・術後の創部痛など)の可能性があり、もし合併症が起こった場合には迅速な治療を行います。
腎提供後に気を付ける事
日常生活や仕事に大きな支障はないと予想されます。しかし、腎提供後は残った腎臓にこれまでよりも大きな負担がかかる事は避けられません。従って、体重・血圧・血糖・コレステロールなどを定期的に検査して必要であれば治療を受け、残った腎臓を大事にするとともに他の病気にも注意してこれまで以上に健康に留意していただく必要があります。
生体腎移植では、ドナーの方とレシピエントの方がお二人とも長く健康でいる事が目標です。