主な疾患 Common Disease

小線源療法

前立腺小線源療法とは

小線源とは、ヨード(I-125)という放射性物質を5mmほどのチタン製の金属カプセル内に封入したものです。転移や浸潤のない前立腺がんに対して、その体積にあわせて60個前後挿入する放射線治療を前立腺小線源療法といいます。日本では2003年9月に治療が開始され、現在約70施設で治療が行われています。アメリカの報告では、早期の前立腺がんにおいてその治療効果は、全摘手術と同等であると報告されています。

シード線源

小線源療法の特徴

転移や浸潤のない前立腺がんの治療には、全摘手術や放射線外照射療法があります。小線源療法は他の治療法に比べて、短期間(通常3泊4日)の入院期間ですみ、体への負担も比較的軽いものです。この治療は転移や浸潤がなく、悪性度の低い前立腺がんにのみ行える治療です。診断されたときのPSA値やグリソンスコア(癌組織の悪性度)によっては小線源療法単独では効果が不十分なため、外照射を併用する場合があります。

小線源療法は放射線治療のひとつです。放射線治療では、周囲臓器への放射線障害が問題となります。小線源療法では前立腺の周囲臓器への照射量は少なく抑えられるため、外照射に比べると皮膚への影響はもちろん直腸や膀胱、尿道への影響も低くなりますが、これらの周囲臓器(直腸・膀胱・尿道など)への影響はゼロではありません。

前立腺がん治療の問題点として、性機能(勃起能)の低下や治療後の尿失禁があげられます。たとえば、ホルモン療法は男性ホルモンを低下させるため、性機能はその治療中ほとんどの場合失われます。全摘手術においては神経温存を行っても、機能が保たれるのは4割程度です。一方小線源療法では、5年後の性機能の維持率は7割程度との報告があります。また、尿失禁に関しては治療直後に起こることは稀で、長期間の経過中にわずかに生じることがある程度と考えられています。

アメリカでは治療後15年の治療成績が報告されており、全摘手術や外照射療法とほぼ同等とされています。ただ日本ではまだ歴史の浅い治療法のため、長期的な治療成績や副作用の発生に関しての成績はまだ蓄積されていません。

小線源治療後にがんの再発を認めた場合には、原則全摘手術や追加での外照射療法行えず、ホルモン療法が主体の治療となります。

小線源療法の適応

前立腺小線源治療の主な適応条件には以下のようなものがあります。

  • 転移や浸潤のない限局性前立腺癌
    (T2a以下:T2aであれば外照射併用にて治療可能)
  • 骨盤内の放射線治療歴がない
  • PSA 10ng/ml以下
    (20ng/ml以下であれば外照射併用にて治療可能)
  • 前立腺肥大症の手術歴(TURPやHoLEP、被膜下摘除など)がない
  • グリソンスコア 7(3+4)以下
    (7(4+3)であれば外照射併用にて治療可能)
  • 高度の排尿障害がない(IPSS 20未満)
  • 前立腺肥大が著しくなく、ホルモン療法によって40cc以下の容積に縮小すると予想される

実際にはそれぞれの方の病状によって、治療可能であるかの判断をさせていただきます。担当医にご相談ください。

副作用・合併症

小線源療法の副作用・合併症には以下のようなものがあります。

早期の合併症

血尿・血精液症

出血量はわずかであり、輸血を必要とすることはありません。

排尿障害・尿閉

前立腺は穿刺や放射線の影響でむくみますので、治療後は尿道を広げる作用のある薬を服用していただきます。退院後もしばらく服用し、排尿の状態が改善したら中止します。

排尿痛、会陰部・肛門部痛、頻尿

軽度の痛みは頻繁に見られます。頻尿含め自然に軽快します。排尿に関する症状は、排尿後3ヶ月目が最も強く感じられますが、その後徐々に改善します。1年たてば治療前の状態に回復します。

会陰部の出血・肛門出血・血便

軽度の会陰部の出血は多く見られます。通常、自然に軽快します。

静脈血栓・塞栓症

麻酔時の体位と麻酔後の安静によるものです。発症すると重篤な病状となる可能性があるため、麻酔中や治療後に予防処置を行います。

晩期の合併症(治療後1~2年位のうちに出現する合併症)

男性機能(勃起機能)の障害

外照射や全摘術よりも低率ですが、3割程度に出現します。

尿道狭窄

尿道への放射線の影響は少なからずあり、そのために尿道が狭くなって、そこを広げるような治療を要することが稀にあります。

尿失禁

一般には稀で、生じてもパットがわずかに必要となる程度です。

直腸障害

前立腺のすぐうしろにある直腸の粘膜は放射線に弱い性質があります。直腸に障害が生じると、痛みが生じ、粘膜から出血したり潰瘍や膿瘍ができたりすることがあります。最近では前立腺と直腸の間にハイドロゲル直腸周囲スペーサ・Space OARを留置することで直腸に対する影響を少なくすることも可能になっています。

シードの移動

シード線源が血流にのって肺など他の臓器へ移動することがあります。2~3割程度に出現し、まれに心臓や脊椎静脈叢など重要な臓器に移動することがありますが、特別な治療や問題が生じたとの報告はありません。

治療の実際

初診時

他の施設で生検を行い診断された方は初診時に以下のデータをお持ちください。

  • 紹介状(病状経過・PSA値など)
  • 生検病理所見・プレパラート
  • 施行された画像資料(前立腺MRI・骨シンチ・CTなど)

これらのデータをもとにして治療の可否を決定いたします。小線源治療の説明と他の治療選択肢を説明のうえ、ご本人のご希望を確認いたします。治療可能と判断した場合には、小線源療法単独での治療が可能か、それとも外照射療法の併用が望ましいかを決定します。

お借りしたプレパラートにて、当院で再度病理診断をさせていただきます。画像診断をふまえ適応の確認を行い、手術日程の調整を行います。

術前プラン(プレプラン)

手術の約3週間前に外来受診で、CTにて前立腺体積の測定と術前治療計画を行い、必要線源の発注を行います。線源はキャンセルがきかないので、都合により治療のキャンセルをされますと注文した線源の実費を負担していただく場合がありますのでご了承ください。

またこの時期に、治療に必要な採血・心電図・レントゲンなどの術前検査と、麻酔科の受診があります。

入院から退院まで

入院期間は原則3泊4日となります。入院は周囲への放射線の影響を考え、トイレのついた特別個室となります。

治療は脊椎麻酔で行い、治療中は眠くなるような点滴を併用します。経直腸的超音波下で前立腺を確認しながら、会陰部(陰嚢と肛門の間)から前立腺内にコンピューターで計算された通り線源を挿入します(図1)。前立腺の大きさにより異なりますが、全部で60~80個前後の線源が留置されることになります。この治療には約2時間かかります。

図1

シード挿入時

治療後は翌朝まで座ったり立ったりできません。翌朝からは自由に動けますが、行動範囲は病室内に限られます。

治療後2日目に体外にでる放射線量を測定し、これが基準内であれば退室可能となります。CT(図2)を行った後退院となります。

図2

退院後

手術の約1ヵ月後にCTにて術後評価を行い、その後は約3ヶ月ごとにPSA値での経過観察を行います。また適宜レントゲン検査も行います。当院では、症状によりホルモン療法を治療前後で計1年間行っています。外照射併用での治療では、小線源挿入の約6週間後から開始しています。

治療後の注意

体に埋め込んだ線源は放射線を出しています。周囲の方へ与える放射線量は、人が自然に受けている放射線量よりも低いことがわかっていますが、一定の期間は周囲の方への配慮は必要です。

たとえば、妊娠されている方や小さな子どもの隣に長く座る、子どもをひざの上に乗せるなどはしばらく避けてください。ひとつの目安としては、2m以上の距離を2ヶ月間といわれています。治療後2ヶ月が過ぎれば線源の放射能は半分に減り、1年たてば周囲への影響を気にする必要はなくなります。

ごく稀に、排尿時に線源が排泄されることがあります。1個の線源から出る放射線は微量であり、日常の生活には差し支えありません。線源はスプーンなどですくい、退院時にお渡しする専用の容器に入れて持参ください。治療後4週間したら性行為を行うことは問題ありませんが、1年間はコンドームを使うようにしてください。

治療後1年間は、「治療カード」を必ず携帯してください。また、その間に何らかの手術が行われる場合には、かならず「治療カード」を提示してください。万一、治療後1年以内に何らかの原因で死亡された場合には前立腺を摘出する必要がありますので、家族の方は担当医に必ずご連絡ください。

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